テーマ:ショート・ストーリー

短篇『不条理な死刑』(以前HPに載せていたものを再掲載)

 足音が近づいてくる。  心を覆い尽くす緊張感。一瞬だけ背筋を駆け抜ける寒気。  心臓は異常な速度で鼓動を打ちはじめる。身震いとともに息がのどにつかえて、呼吸をすることさえ困難になる。酸素が欲しい。    足音が大きくなってきた。ところどころから嗚咽が洩れはじめる。生に未練を残すものは迫りくる恐怖に自己制御を失って暴れ出し、すで…
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『月光環』(短篇)

 夜風が身体を擦り抜けていった。昼間の生暖かい空気とは違い、ひんやりとしていた。身体全体が冷気でじわじわと侵食されていくような感じがする。明生(あきお)は肘までまくり上げたジャケットの袖に目を落とすと、それを長袖に戻した。  車の走行音がやまない路傍で、明生はベンチに腰を下ろしていた。隣には中年の夫婦が並んで座っている。キャリー付の大…
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『右ポケット』(クリスマス短篇競作企画作品)

 外気に触れた瞬間、健斗の大きな身体が小刻みにガタガタと震えた。アパートの部屋の暖かな空気に慣れきっていて、すっかり油断していた。慌ててコートの袖に腕を通し、襟を合わせる。気を落ち着かせようと吐き出した息が煙のように立ちのぼり、虚空へと消えた。  そういえば昨夜のニュースで、今夜の最低気温は氷点下に達すると言っていたな、と健斗は思い出…
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"can't fly" or "don't fly"

あるところに 二羽の鳥がいた 一羽は 飛びたくても飛べない鳥 一羽は 飛べるのに飛ばない鳥 あるとき 飛べない鳥は 飛ばない鳥に訊いた 「ねぇ。なんで君は空を飛ばないの」 飛ばない鳥は答えた 「飛ぶのが嫌いだからさ」 飛べない鳥は ちょこんと小首を傾げた 意味がわからなかったからだ あんなに雄大な青空…
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たからもの

「うわーん!!」 「ど、どうしたの、ぼく! 何があったの?」 「たからものが、こわれちゃったよー!!」 「まぁ、何が壊れちゃったの? おもちゃ? ゲーム?」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「・・・心のダム」 ●●●●●●●●●●●●●●…
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『コイントス』(エイプリル・フール短篇競作企画)

 これで決めよう。タケルはそう言うと、ジーンズのポケットから黒革の財布を取り出した。 「何だよ、ビールでも奢ってくれるのか」 「そうだな。こんなときこそ一杯やって、落ち着いてから考え――って、何でだよ!」  タケルのノリツッコミには、もう笑う気力も起きなかった。というより、まったくおもしろくない。これが今日、俺たちが運命の岐路に立…
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『ホームラン』(ホワイトデー短篇競作企画作品)

 地鳴りのような声援が渦巻くスタンド。そのところどころから、打席に立つメジャーリーガーに向かってフラッシュの嵐が湧き起こった。外野席から鳴り響く力強い太鼓のリズムに乗って、トランペットの音が華麗に奏でられる。その応援に後押しされるようにして、打者のバットが一閃すると、鋭いライナー性の当たりが一、二塁間を駆け抜けた。  ――なん…
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「なぜに君は立つ」(第2回短篇競作企画作品)

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 「なぜに君は立つ」  人類っていうやつは、これまで目覚ましい進化を遂げてきたんだ。二足歩行をして道具を使い、言葉を操り、脳を大きくして抽象思考ができるようになった。これはもう何万年も前の話と思うかもしれないけどさ。今だって現在進行形で、使える道具も、話…
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「夜空のピッチ」(短篇競作企画作品)

 満月を見上げると、いつも加奈は三つ歳の離れた兄のことを思い出す。  誕生日が五月三日だから憲生(ケンセイ)と名づけられた兄。牡牛座で、O型の兄。下手の横好きのくせに、四六時中サッカーに明け暮れていた兄――。    もう十年以上も昔の話になるだろうか。加奈がまだ小学校に上がる前のとき。天体観測好きの父の発…
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さがしもの

  「うーん、ないなぁ」 「おじょうちゃん、何か探し物?」 「うん。さがしてるんだけど、なかなか見つからないの」 「へぇ。何探してるの? 虫さんかな? きれいな石かな?」 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「……本当の自分」 …
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かくれんぼ

「ぼうや、こんなところで何してるの?」 「かくれんぼしてるのー!」 「へぇ、鬼は誰かな? おとうさんかな? おかあさんかな?」 「……現実」
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